相続放棄するための要件はいくつかありますが、相続放棄をする前でも後でも、相続財産を勝手に処分してしまうと法定単純承認(民法921条)として、相続放棄できなくなってしまう(もしくは相続放棄が無効となる)ことがありますから注意してください。
「処分」にあたる行為として典型的なものは、以下のようなものです。
- 遺産分割協議を行う
- 相続財産を売却する
- 被相続人の有していた債権を取り立てる(最判昭37.6.21)
こうした相続財産の処分行為があると、被相続人の「相続財産を相続するという意思」が黙示的に表示されたと考えられるため、単純承認(第920条)をしたと推定するわけです。
もちろん処分した行為さえあれば相続放棄を一切認めないという機械的なものではなく、相続開始を知らないまま相続財産を処分したようなケースにおいて、法の趣旨に照らして単純承認を擬制するだけの根拠がないと判断した判例もあります(最判昭42.4.27)。ただ、原則的には上記行為があれば単純承認が擬制されるものと考えて頂きたいと思います。
もっとも、この規定をあまり厳密に適用すると、たとえば亡くなった方の衣服など細々した遺品を捨てることもできなくなってしまいますから、そのへんは常識的な範囲内で線引きするしかないでしょう。
判例上も、被相続人の上着やズボンを1着ずつ譲渡した行為について「処分」には該当しないと判断したものがあります(東京高判昭37.7.19)。
同様に、被相続人の火葬費用の足しにするため相続財産を支出したような場合にも、「処分」に該当しないと判断したものがあります(大阪高決昭54.3.22)。
このように「処分」に該当するかどうか微妙な判断が必要となるケースもありますが、まずは原則通りに被相続人の遺品等にはあまり手をつけず、速やかに相続放棄のご相談をされるほうがよろしいでしょう。
無事に相続放棄を完了した後、もし残余財産などがある場合には、相続財産管理人の選任申立などによって対処することをお勧めします。
当事務所では、相続放棄だけでなく相続財産管理人としての業務も行っておりますので、まずはご相談下さい。
第920条 (単純承認の効力)
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
第921条 (法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。